Kブラシについて

治療用歯ブラシとして、K-0、K-1、K-2、K-3の4本セットが考案されましたが、現在は製造・販売共に中止になっています。
 
昨今、多くのメーカーから様々な歯ブラシが提供されていますが、歯肉の状態、歯周病の各ステージに適応するようなシステム化はされていません。
私たちは、片山の「Kブラシ」に近似したものを、各メーカーの製品から選別して用いている状況です。
 
現在、片山の「Kブラシ」そのものは存在しませんが、その「使用法」に多くの示唆があります。
 



磨き始めに痛いと、いやになる


治療をどんな歯ブラシで始めるかは、きわめて重要である。
治療開始時点で、患者の「この努力でどのくらい良くなったか」という認識と達成感が、長く磨き続けるかどうかを、大きく左右する。

さらに磨き始めた時に「とても痛くて磨けたものではない」という経験をしてしまうと、その個所を磨くのが、ずっと及び腰のままで推移する。
そのために最も悪い個所、つまり最も大事な個所が磨けずに残ってしまう。
むろん磨いて出血するようなブラッシングでは落第である。

治療開始時、いわば「初心」のブラッシングが、長きにわたる患者の努力の原点となることを考えると、この時のブラシの適否が膿漏治療のゆくえに重大な影響を及ぼす。
治療用ブラシは決して痛くなく、不愉快さを与えない。
出血を避けることができる。
それでいて、丹念に行えば歯垢除去ができる。
少なくとも、歯科医院で歯垢を除去してもらったきれいな歯を、次の診療時まで清潔に保ち、歯垢を積み重ねずに済ませられる。
このようなブラシが必要となる。
 
治療用ブラッシングのポイントは、「歯と歯との間」と「歯と歯肉の境目」である
この小さな2つの場所が目標である。
どちらの目標も、痛くないように(傷ができないように)、そっと、そおっと狙わなけばならない。

毛束が多すぎるほど、とび出た場所に当たっている毛束が何倍も生じて、小さな凹んでいる場所に毛束が入るのを邪魔する。
そのため強く力を入れて突っ込まなくては、凹んだ歯と歯肉の境目にも、歯と歯との間の際立った凹みにも毛先が届きにくくなる。
それだけではなく、凹部に入りきらなかった毛先は、弱っている歯肉に突き刺さる。
それを我慢して振動させると、必ず傷を作り、出血させ、痛みを生ずる。
普通の歯ブラシでは治療のための突っ込み磨きは無理である。



油絵筆や毛抜きの工夫を生かして


私は長い間、症状のひどい場所には極軟毛の油絵筆を加工し、軽い場所には軟毛ブラシの毛束を一部分抜くなどして、症状に合わせ手作りブラシを指導してきたが、医・患共にきわめて厄介であった。
急性症状の治療用ブラシは、狙う場所に有効に当たる毛先は一列で、毛束の間隔が広めのものが良い。
毛の硬さ、長さも大切な要因である。
そこで、最も効果的で、痛さも出血も与えない、極細ナイロン毛束のK-Oを開発した



症状改善に対応して磨けるように


治療用ブラシで症状が改善して来た時点で、症状に併せてブラッシングのやり方を変えて行く必要がある。
特に歯間乳頭部がクレーター状になった時にきちんと毛先を歯間に突っ込み、かきまわす「突っ込み磨き」を完璧にしなくてはならない。
毛先の長さと硬さを変えて開発したのがK-1〜K-3である



ブラッシングを始めるときの注意


悪いところを早く治したい為に悪いところからブラッシングを始めやすい。
そのため他の比較的健康な部位を忘れやすい。
まず、悪いところは後回しにして、必ず先に比較的健康な部位をK-2、K-3で徹底的に清潔にして、口腔内の歯垢を減らす必要がある。
それから最後に悪い部位のブラッシングをK-O又はK-1でかからなければならない。



歯垢再付着予防の長時間ブラッシング


K-Oは単独で歯垢を完全除去することを狙っていない。歯科医院で小綿球や器具を用いてのプロフェショナルクリーニングを行い、完全に清潔にした後、3〜4時間毎のブラッシングで、歯垢再付着予防、つまり無歯垢の保持を目的とし、決して痛くしない(ブラッシングの定着を妨げない)ことを最大の眼目とした。
毛先を寝かせ気味に(45度程度に)歯頚部に当て磨く
出血させないように注意が必要である。
出血は傷を付けたことになり、感染を招くから、もし、出血したら必ず不当をする。
歯肉が改善され、痛くもなく、出血もしなければ、次第に歯肉に直角に当てて磨く。
さらに症状が改善したら毛先を歯茎に向け、突き立てるような角度(45度が標準)で磨く。



K-1、K-2で歯間部を完璧に


さらに歯肉が改善して来たらK-1へ進める段階である。
毛先を①寝かせ気味②直角③毛先を立てて、と変えて行く。
痛かったり、出血したら、早く進みすぎたのだから、元の段階に戻す。

K-1の段階での一般的な注意は、
①一日に三回くらいに回数は減ってもよいが、歯垢を完全に落とす(歯垢顕示液の2度染めで確認する)
②歯問部への突っ込み磨きを上下左右の奥歯部分について完全にしておく。
口内鏡での赤染確認をする。

K-2の使い方も同様に推移する。
正しいブラッシングを続けて来ていれば、もう出血はほとんど心配ないはず。
だんだんブラシを強く当てて行き、歯間空隙の歯の根元にも着実に毛先が届くよう気をつけること。



ブラシの握り方を変え、力をこめて


治療開始より3〜4週間で、いよいよ歯間空隙が大きくなり、歯の根元まで毛見を届かせるには、かなりの力が必要になってくる。
この解決がブラシの握り万の変更である。
ペングリップから、指四本をそろえて握る方式への変更である。
また、この段階からは歯垢除去より歯肉鍛錬にブラッシングの重点が移行してゆく。
少しくらいのばい菌侵入にビクともしない、抵抗力のある歯茎を新たに獲得してゆく程でなければ、溶けて変形した骨の回復は望めない。



後退を警戒しつつ、K-3で励む


K-3の時期に気をつける点が二つある。
①ふるわせ磨きをした上に、ダイナミックなフォーンズ法を加味してゆくこと。徐々に一ヵ月ほどの時間をかける必要がある。
②必ず2〜4週間に一回はきちんと歯垢顕示液で染め出し、歯間部(隣接面)をとくに注意して、磨けていることを確認してゆくことだ。
時期的に一番だれやすいし、後戻りしやすいから

以上は最悪の個所のブラッシングであるが、口腔内には健康歯肉の個所もあるはずである。
特に口蓋部は健康歯肉であろう。最初からK-3で口蓋全面を血管走行(P.59参照)に沿うように前後にブラッシングする。
また、歯間乳頭部の健康歯肉にはK-1、K-2からブラッシングを始めてもかまわない。
4本同時的使用である。



出血の手当


飽和食塩水とタンニン液(番茶の出がらしを煮詰める)で止血、消毒する。


これらの歯磨きのコツに関しては、
歯槽膿漏を自己採点する」P19〜P24、「歯槽膿漏 ー抜かずに治すー」第2部ブラッシングする生活にも掲載されています。





片山先生と或る先生との往復書簡


Kシリーズ歯ブラシを患者さんに実用しての感想

片山 恒夫 先生

拝啓
節分を迎え、明るい日差しと共に、厳しい寒さの中にも春の訪れの近いことを感ずる今日このごろですが、先生はじめ皆さま、お変わり御座いませんように、ご健勝をお祈り申し上げております。

私ども、先生の開発されました治療用歯ブラシKシリーズを患者たちが使い始めて早や1ケ月、その治療効果のめざましさに驚き、改めて先生の歯ブラシ指導に対する配慮の細やかに、スタッフ一同驚嘆している毎日です。

その成功の要因は、何よりもまず、痛くないブラッシングから始めることにあったことを痛感しております。 “……油絵筆でなでるのと同様なブラッシングでは、痛くはなかろうが、どうして病因歯垢が除去出来るのか?と考えるのではなく、どうすればこの傷んでいる歯肉に対して、歯垢を病因になるほど再接着させないようにブラッシングできるか”と考えることだったのです。

それは病因歯垢の除去を、医療者の専門的技法によって、ひとまず無痛に除去したあと、その効果をどう続かせるか、と考える発想と結びつくことがよく分かりました。処置を効果あらしめるために必要な清潔さの持続、治療後すぐ始めなれればならない清掃、つまり患者自身の治療参加が事実上、痛くないブラッシングで初めてできる! ということだったのです。

そのうえ通院間隔の特別な短縮などもありますが、これまでの例に比べると大部分の患者さんが、ずっと速く、いずれもきれいに、そして楽しそうにやって来られるのには嬉しくなります。それにつけ、これまで如何に痛い思いをさせながら、患者さんにブラッシングを命令し、押しつけて来たことか!とつくづく思い知らされた気がします。

お陰さまで、また1つ患者さんの痛みを分かち合う感性を与えて頂きました。

これまで私は、ペリオによる急性炎症などで来院される患者さんに対し、可及的に無刺激的に歯肉縁上および、Pocket内のプラークを、綿球、探針、ピック、スプレーなどで洗い流して来ました。しかし患者自身で行うブラッシングは、ひどくプラークが付いてから、或いは、ひどく付いているのを除去するように、気付かせ、励ます態度であったように思い返されます。

その前に、ブラッシングにより丹念に歯垢を取り除いてやる”医の愛”こそブラッシング指導の原点であると納得致しました。
とくに重症患者の治療で、いかにブラシを重症患部に到達させるか、いろいろ熱心に試行錯誤でやってみていましたが、効果薄でした。患者たちは、指導には納得していたようでしたし、努力もしてきたようでしたが、いま考えると、痛くて十分に出来いなかったのだ! と気付きました。

今回のK-Oでの治験例から、痛くなく、だから患者自身で注意深く、きめ細かく長時間やってくれる、だから治療効果が得られる。その理由がよくわかりました。

特に、初期指導の患者の受け入れ方が素直で、結果としての症状改善が患者自身にもよくわかるようです。その体験から、次回の治療と指導を受ける態度が意欲的に前向きに大きく変化してきています。

初期指導のあり方の重要性を痛感致しました。

また気持の緩み、たるみを見逃したり、症状の変化を見逃したり、励ましなどの適切な指導を欠いたのでは、とても治療の成功は覚束ない!とも痛感しております。と同時に、歯周病が主訴ではなくても「来院患者のほとんど全員、歯肉の有病者であり、したがって、通常市販のブラシで治療効果が上がるような歯垢除去をしようとすれば、痛みを感ずる人たちである。全員かならずK-Oからはじめること。数週間後、数ケ月後でなければ、市販の歯ブラシは、治療用としては使えないであろう…」とのお言葉をようやく理解できました。

先生のおっしやる「どんな場合でも、痛みを感じることのないK-Oをもって、境い目と歯間に突っ込み洗いを始めさせる。 K-O〜K-1〜K-2を各々数日間ずつやれば、軽症の場合であれば、K-3(通常市販歯ブラシ)によって、効果的にブラッシングすることが可能なまでに改善される」と言うことも、全くおっしやる通りであると、治験例により確認できました。

この自信は、患者さんに接する時の指導態度などからも、大きな影響を与えることと思います。

とにかく続けてやりながら、次つぎと先生の方式に近づきたいと思っています。
追加として5箱お送り頂きたいと存じますので、7万円同封いたします。
寒さ厳しきおりから、くれぐれもお身体御自愛のほど祈念致しております。

敬具

昭和61年2月4日

今井 修(仮称)拝


今井 修(仮称)君

拝復
Kシリーズ歯ブラシでの治験感想を詳しくお知らせ頂いて、ありがとうございます。

従来から云われている、歯周治療のなかでの「ブラッシング指導」がいろいろの点で不十分であったことがお分かりになって、患者さん達のためにも、本当に良かったと喜んでおります(虫歯や膿漏の予防のためではなく、歯周病治療のためのブラッシングは、ブラシもテクニックも大きく違う。混同してはならない)。

文面にもありましたように、治療の第一原則としての病因(≒歯垢)の完全除去を治療処置として医療者の専門技法によって、可及的無痛に完了したとします。しかしそれを行ったとしても、次回診療までのあいだに、歯垢の再付着(病因の再襲)がどう防げるかです。それが放置されたり、或いは不十分であった場合、それは初診処置そのものが、さかのぼって無効の処置、全くムダな、だから却って信頼を損なう処置になってしまう…と云わざるを得ません。

だからこの初診処置を効果あらしめるためには、再襲する病因を防ぎ止めることがどうしても必要です。これが出来なければ、文字通りナンセンスだけではなく、有害な処置ともなっていたとお気づきなのは嬉しく思います。

初診時の処置によって、回複効果を得るためには、病因が除去されるだけでなく、病変組織の生命力が力づけられ、回複力が賦活されることも必要です。治療原則の第2、病変組織の改善(症状の改善)にあたります。そのためには、自然良能の働き得る時間、回復力のおよぶ時間経過の確保が必要なことは、云うまでもないことだと思います。

病因歯垢の再付着までの時間を確保することが、回複経過の確立に繋がるのです。無論この間に、病変組織に対する賦活作用の継続が必要です。

そのためには、ごく短時間の間(4〜5時間ごと)に再処置しなければならないが、それは恐らく医・患とも実行しがたいことだと思います。そこでどうしても、患者の協力を超えた患者側の治療参加が必要になるわけです。

治療参加の内容は、病因の再襲を防ぎ、適当な組織賦活を続けることです。そのための適正なブラッシングを励行し、実を上げてもらうことこそが、回復のために必須条件となります。

ここまでは分っていたとしても、それを従来の歯ブラシでやって貰おうとするのでは無理難題の押し付けといえないでしょうか。痛くて、不安で本能的に腕がにぶるからです。やる気も無くなります。だからほとんど不可能な注文です。それを意識的にガマンするか、欲張って頑張ったとしても、結果は悪化するに過ぎません。
 
そのような不信または自己嫌悪の種を蒔くよりも、また、ムダな回り道をさせるよりも、処置後、すぐから再付着を妨害する目標で、日に何回も(10回程度)油絵筆(K-O)磨きをさせるわけです。
ほんの数日のあいだだけです。その後、できるだけ短時日で、やり方の間違いがあればそれを正したり、回復を確認させたりしながら、次の課題(K-1の使用)に進ませるために再診するのです。
 
それらの次々の指導は、その患者の病変組織に対する理解と対処法(療養の理解と励行⇒局所的衛生習慣定着)の必須事項であるばかりではないのです。ブラシもK-OからK-3に造むだけでなく、そのあいだに食べ物と噛み方運動と呼吸法睡眠と歯軋りなど、全身的回復促進に必要な健康づくりの指導が欠かせません。その人が生涯を通じて行わなければ損をする、その人なりの自主健康管理法(⇒健康文化創造)を指導することです。
 
お手紙にあるように、初診時処置の効果とその後引続き自身で行った病因防除の組織賦活のブラッシング(自然良能賦活治療法=フィジオセラピー)の効果が、患者にも知的・体験的に納得できた時に、その後に来る次々の課題を意欲的に前向きに対応させる最も効果的なモチベーションになります。
生活全体が健康に向き直ります。

昨今、第2回目の歯ブラシ請求が次々と到着しております。いろいろな感想も聞くことが出来て、それぞれへのお答えの参考になっております。まだ出来れば詳しく状況をお知らせください。

草々

昭和61年2月10目

片山 恒夫




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